秘伝拝見

今月号のCOMMERCIAL PHOTOは「ナカサアンドパートナーズに聞く建築撮影秘伝ワザ」という特集。ストレートに自分のお仕事分野なので早速拝見した。

実は自分はプロとして活動しているが全て独学でいわゆる師匠は持っていない。唯一学ばせてもらったのがナカサアンドパートナーズの撮影現場での立ち合いと納品時のクオリティからだ。今から約30年程前、ナカサアンドパートナーズが法人化した頃に以前勤めていた会社で撮影依頼をする機会があり、撮影立ち合いをすることが度々あった。今となってはそれが学びの場となっていた。

ナカサアンドパートナーズは建築・インテリア系撮影の世界では日本はもとより世界でもトップクラスのクオリティを持つグループだ。建築・インテリア系の撮影は専門とするフォトグラファーが少なく、現実は他分野のフォトグラファーが片手間で撮影をしているケースが多い。

一見、それで事足りている感はあるが専門のフォトグラファーから見れば素人レベルに毛の生えたクオリティということがすぐに分かるケースも多々ある。興味ある方は今回の特集号を見て頂きたい。撮影からレタッチまでかなり手の込んだ準備と様々なテクニックがあることが分かる。

特集を拝見した後、ほぼ同様の撮影とレタッチをしていることで今の自分のポジションを確認できた。ただし、何点かは考えが違う手法があった。具体例は控えるがこれは元空間系デザイナーとしての視点なので写真家集団のナカサアンドパートナーズとは考えが違うのも仕方がない。様々なアプローチがあると思う。

ただ、一点だけ譲れない点、撮影者とレタッチャーの手が違うこと。この点はデジタル時代のフォトグラファーとしては意見が180度違う。特集の中でも書かれていたがレタッチャーは実際の空間を見ていない。いかにベテランレタッチャーでも想像の域を超えることは出来ない。実際の現場の環境はそれぞれ違うものだ。同じものは無い。

レタッチャーの負担を軽くする為に現場で相当追い込んでいる手法を取っているようだがそれゆえ時間と手間が膨大にかかっている。多くのスタッフが関わる現場を短時間で終わらせることも大きなメリットだ。出来るだけ短時間で撮影を終え、撮影後には撮影者自らが手間と時間をかけてレタッチで追い込む。その繰り返しで現場での撮影手法も変わっていく。実際に現場を見ている撮影者がレタッチ・納品まで一貫してオペレートすることのメリットはやったものにしか分からない。

大切なことは撮影者がデザイナーと空間のイメージを共有すること、そしてそのイメージを持ってレタッチを行うこと。その為のレタッチスキルは持ち合わせていなければならないのも現代のフォトグラファーの必要条件。分業によって効率を上げなければならない法人ではなかなか厳しいことだとは思う。自分も企業デザイナーだった頃もあるので理解は出来る。

いずれにしてもナカサアンドパートナーズは我々空間系フォトグラファーの頂点に立っていてほしい存在だ。ゆえにトップグループとしてあらゆる面で目標となるクオリティを見せ続けてほしい。今の自分のクオリティのモノサシはあの30年前に見聞きしたものがベースになっている。意見は異なる部分もあるがかつて学ばせて頂いた恩は忘れていない。

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.