幸運で幸福な出会い

1月7日からシアタークリエで始まった「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」も福岡公演を終えて最後の地、大阪公演で大千穐楽を迎える。チケット入手難の中、運よく2回、13日と東京千穐楽!をクリエで観劇。最後の地、大阪でも観たい衝動にかられ、昨日大阪へ向かった。実は大阪のチケットは一回目の観劇の後に手配してあったがよもや東京千穐楽を見られるとは思っていなかったので大阪行きは直前まで迷っていた。だがSNSの評判は日に日にうなぎ登りで行かずには居られなくなってしまった。

大阪の新歌舞伎座。10周年ということでまだまだ綺麗な劇場だったが手に入れていたチケットは注釈付きS席?意味が良く分からないまま席へ着き、開演して意味が分かった。ステージ上手側の約1/4がほぼ見えない。ただ、席自体はとてもリラックスできる席だったので苦笑いしつつ、今まで何度も観たシャボン玉だったのでそこは脳内で演技を想像しつつ会場の雰囲気を楽しむことにした。

観客の様子や劇場の空気感を感じつつ、純粋に観劇とはちょっと違った感情が湧いていた。奇しくも32年前の初演を観て以来、今まで当たり前のように音楽座ナンバーを観続けてきた。このシャボン玉もレパートリーのひとつだった。だが今回東宝が再演し、改めてこのシャボン玉がとても特別な作品だったのだと。そんな感情に浸りつつ、見えないステージを想像しながら歌うまの俳優陣の歌とメロディに酔いしれていた。

今回のシャボン玉。主役級の俳優ばかりなのでそれぞれの俳優推しのファン、宝塚ファン、現在の音楽座ファン、自分のような昔からの音楽座ファン、そして初めて観る老若男女。さらに演じる俳優陣も全員がこの作品を宝物と思っている、というあまり聞いたことがないステージ。観劇した人が爆笑と号泣の繰り返しで感情が揺さぶられまくって最後は心の底から感動した気持ちをSNSに披露しているのを見るにつけ、自分はどれほど凄い作品と出会っていたのかを改めて知る機会となった。

作品と共にこれも今やレジェンドと呼ばれる土居裕子さんという稀有の才能を持った国宝級のミュージカル女優。今回初めて知った方も居てもっと早く知りたかったという感想も多く、土居裕子さんとの出会いも実は自分の人生をどれほど豊かにしてくれていたか。帰りののぞみの車中、自分はなんと幸運だったのかと幸福感を噛みしめていた。本日の大千穐楽、ここまで演じてきた俳優陣の方々が事故無く無事に終えられることを祈っている。

LEICA M10-P / SUMMARON-M 28mm f5.6

LEICA M10-P / SUMMARON-M 28mm f5.6

シャボン玉との出会い

「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」との出会いは不思議な出会いだった。

1988年の音楽座旗揚げ公演の年、自分は多摩センターに建設中の「サンリオピューロランド」のプロジェクトにアートディレクターとして携わっていた。いくつかあった担当エリアの中でメルヘンシアターというアトラクション計画があり、ちょうど基本設計が済んで実施設計に入る前だったと記憶しているがサンリオの担当者から相談があった。

オープン後のメルヘンシアターで実際に演劇を依頼できる劇団を選定中でその中に発足間もない音楽座がリストアップされていた。その為、当時のプロジェクトリーダーと私に実際にその劇団の公演を観てきて欲しいとの打診があった。それが「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」だった。

それまでミュージカルなど全く縁がなかった自分はリーダーと共に初めて本多劇場へ足を運んだ。チケット窓口に行くと前売りのチケットはすでに売り切れていて当日券の補助席ならばあるとのこと。今振り返るとその時すでに公演の終わり際で評判が評判を呼び、チケットが入手しずらい状況だった。

仕方なく通路に設けられたパイプイスの補助席で居心地の悪さを感じながらも幕が上がった。最初は宇宙空間からの関西弁からの宝塚?と違和感を感じていたが始まってしばらくすると一人の少女があのメロディを歌いだした。その途端、全身にカミナリが落ちたような衝撃と心の奥底を揺さぶられる感動に出会ってしまった。それが「ドリーム」だった。

狭い本多劇場の通路前方3~4列目の距離でその歌声を浴びてしまった。その少女のどこまでも届く透き通った天使のような歌声は人生で初めて人の歌声で涙がこぼれた。その少女こそ若かりし頃の土居裕子さんだった。実は初演のストーリーはあまり記憶していない。土居裕子さんの歌声しか覚えていない。それほど衝撃的な出会いだった。

人生で初めて観たミュージカルがシャボン玉の初演という今振り返ればなんという幸運!その瞬間からミュージカルを愉しむ豊かな時間が持てる人生が始まった。自分の人生においてサンリオピューロランドから始まったテーマパークとの縁は無くてはならないがそのことによって音楽座と出会い、「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」に出会い、土居裕子さんという永遠のマドンナに出会えた。縁というものは不思議なものだ。

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

32年の時を経て・・・

年明けから写真以外のことで長文なのは恐縮だが関心のある方だけお付き合い頂ければありがたい。

1月7日から銀座シアタークリエで上演が始まった「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」を先日相方殿と初観劇した。この作品は今から32年前の1988年、劇団音楽座の旗揚げ公演で本多劇場で産声を上げた日本製のオリジナルミュージカル。人間愛をベースに宇宙まで広がる壮大なストーリーと秀逸な音楽、そして主演の土居裕子さんの天使の歌声に打ちのめされてその日からミュージカルに夢中になった自分の人生において最も記念すべき宝物のような作品だ。

今回、音楽座のオリジナル作品を東宝が上演するというミュージカル界の常識と垣根を越えての公演となり、主役が井上芳雄と咲妃みゆ、脇を固めるのは福井晶一、濱田めぐみ、畠中洋、吉野圭吾、上原理生、内藤大希、仙名彩世などなど蒼々たるメンバーでそれに加えてなんと初演時に主演を演じたレジェンド土居裕子!までキャストに加わり、東宝、四季、宝塚、音楽座の各々の出身メンバーによる日本のミュージカル界における画期的な公演となった。

内容も音楽座のオリジナリティを残しつつ、令和のシャボン玉と言って良いほどのクオリティで良い意味で東宝らしい味付け。主役級が揃った俳優陣のさすがの演技力ととんでもない歌唱力で本当に素晴らしいミュージカルに仕上がっている。特に御年61歳!!になられる我が永遠のマドンナ・土居裕子さんの透き通った天使のような歌声は相変わらずで、その歌声を聞いただけで自然に涙が出てしまうほど。居合わせた観客、老若男女全てを魅了していた。

それにしても30年以上前に上演された音楽座の代表的な作品をこの2020年にまさか東宝が上演するとはおそらく多くのミュージカルファンは夢にも思わなかったウルトラ級の出来事。しかも俳優陣がそれぞれこの作品がきっかけでミュージカルの世界を目指した方々やこの世界にデビューした方々などシャボン玉に出ること自体を演じる側の方々が一番感動している。こんなことは聞いたことがない。

1988年の初演から見続けて、もう何十回観たか記憶がないほどこの作品を愛している自分としては初めて観る若い方々がどんな感想を持つのだろうか?ということが一番気になるところだった。言うなれば親心のような気分。ところが初日から感動と絶賛の嵐!32年前に自分が衝撃を受けた感動は令和の時代でも同じように受け入れられて同じように感動を呼んでいる。やはり本当に良いのものは普遍なのだとSNSに上がる声に毎日、嬉々としている。

今回の東宝の企画は日本のオリジナルミュージカルにおいて画期的なことで意味深い。今後、このシャボン玉をきっかけに新たな流れが生まれる予感がする。初演時には名も無き小さな劇団だった音楽座が後に日本のオリジナルミュージカルの最高傑作と呼ばれるシャボン玉を世に送り出し、オリジナルミュージカルの潮流を作ったように時を経て今度は東宝が同じくシャボン玉で新たなオリジナルミュージカルのトレンドを作ってほしい。

現在の音楽座は解散前の旧音楽座とは劇団運営の考え方が少々違っていて過去の名作をオリジナルのまま上演する機会が減ってきている。しかし、旧音楽座の作品群はシャボン玉に勝るとも劣らない作品ばかりで傑作オリジナルミュージカルの宝庫だ。今回の東宝の企画のようにどこが企画しようが今後これらの傑作たちが多くの方々の目に留まり、オリジナルミュージカルの世界へと誘うきっかけとなり、より多くの人たちが心の底から感動できるシーンをもっともっと作ってほしい。

今の音楽座には今後のミュージカル界に対して前向きに大きな心を持った英断を期待したい。今回のシャボン玉で東宝はもちろんこの作品を提供した音楽座の評価と関心がかなり上がっているのも事実だからだ。昔も今もこれからも永遠の音楽座ファンとしての切なる願いだ。

32年の時を経て・・・左 2020年東宝作品パンフレット。右 1988年音楽座初演パンフレット。

32年の時を経て・・・左 2020年東宝作品パンフレット。右 1988年音楽座初演パンフレット。

とらや赤坂本店

昨日は相方殿と久しぶりに赤坂ACTシアターでミュージカル観劇。1952年製作の映画「生きる」という黒澤明監督作品のミュージカル版。演出は宮本亜門だったが以前から彼の作品は少々肌に合わない。ブロードウェイミュージカルに影響された彼の演出はエンターテインメント性はあるが大味で胸にグッと来るものが感じられない。以前からの印象は残念ながら変わらなかった。

キャストは我が川越のスーパースター市村正親主演なので文句は無いし、脇役たちも芸達者でテーマもストーリーも悪くないのだが、いかんせん演出と音楽(外国人担当)があまり良くない。シーンによってはここはこの音楽ではないのでは?や、う~ん演出が・・・となり、自分のミュージカルのモノサシでもある音楽座で慣れ親しんだ涙と笑いと胸に迫る感動は感じられなかった。それよりも観劇後にまるで呼ばれるように行った「とらや赤坂本店」に感動してしまった。

赤坂見附近くの246号沿いに和菓子の老舗「とらや」があったことは記憶していたが3年間休業の後、まさかこの10月1日にリニューアルオープンしていたとは露とも知らず、行ってビックリ。建築家内藤廣氏の設計で木材をふんだんに使った内装や建築は老舗の「とらや」にマッチしていて素晴らしい!のひと言。自分はあんみつに抹茶のセット、相方殿はおしるこに抹茶のセットを頂き、贅沢で素敵な時間を持つことが出来た。ミュージカルに少し不満が残った分、最後に満足できる一日となった。

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LEICA M10-P / SUMMILUX-M 35mm f1.4

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 35mm f1.4