小さな生命

腎不全のため腎臓が全く機能していない我が家のイネ。昨年の正月に発症して以来、ほぼ毎日のように自宅で皮下輸液注射を施している。もともとヒトが近づいただけで脱兎のごとく逃げ回る習性のイネ。そのイネを捕まえて皮膚を持ち上げ、正しい位置に注射を打ち、ヒトの点滴のように250mlの輸液を手絞り?で注入する。言葉で書けば簡単だが毎回相方殿と二人掛りで格闘状態だ。

この一年間、様々な工夫をしてきて徐々に慣れてきた。まず押入れの狭い場所に追い込み、捕まえたら即座に黒布を顔に被せ、目隠し状態で洗濯ネットに入れる。こうすると全く抵抗しなくなる。傍で見ていると虐待状態だがあくまで治療、仕方がない。猫の皮膚自体はかなり伸びるが最初はどこの部分をどこまで伸ばしてどこに打てば良いのか手探り状態。打ち所が悪いと輸液が漏れてきたり、モゾモゾと体を動かされて針が外れて失敗する事も多々あった。

今ではすっかり慣れて捕まえるのも注射を打つのも輸液を搾り出すのも手際よく短時間で出来るようになった。最初はどうなるかと思ったがイネ自体も慣れてきて輸液を入れると楽になるようで、最近では追い込まれて小さくなっているイネの瞳は嫌々ながらも注射を打つのを待っているようにも見える。ただ、人間に例えれば人工透析状態。いつどうなるかは神のみぞ知るである。

逃げ回って触ることすら出来なかったイネが短い時間でも手の中で静かにしている姿を見ると腎臓が機能していないにも関わらず小さな体でよく生きながらえているものと思う。イネに輸液を入れている時間、小さな生命に直面し、自分たち夫婦にとっても実は貴重な時間であることに気付かせてくれる。ヒトにも言えることだが生命の儚さや日常の瞬間を大切にすることをイネを通して学んでいる気がする。

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2