32年の時を経て・・・

年明けから写真以外のことで長文なのは恐縮だが関心のある方だけお付き合い頂ければありがたい。

1月7日から銀座シアタークリエで上演が始まった「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」を先日相方殿と初観劇した。この作品は今から32年前の1988年、劇団音楽座の旗揚げ公演で本多劇場で産声を上げた日本製のオリジナルミュージカル。人間愛をベースに宇宙まで広がる壮大なストーリーと秀逸な音楽、そして主演の土居裕子さんの天使の歌声に打ちのめされてその日からミュージカルに夢中になった自分の人生において最も記念すべき宝物のような作品だ。

今回、音楽座のオリジナル作品を東宝が上演するというミュージカル界の常識と垣根を越えての公演となり、主役が井上芳雄と咲妃みゆ、脇を固めるのは福井晶一、濱田めぐみ、畠中洋、吉野圭吾、上原理生、内藤大希、仙名彩世などなど蒼々たるメンバーでそれに加えてなんと初演時に主演を演じたレジェンド土居裕子!までキャストに加わり、東宝、四季、宝塚、音楽座の各々の出身メンバーによる日本のミュージカル界における画期的な公演となった。

内容も音楽座のオリジナリティを残しつつ、令和のシャボン玉と言って良いほどのクオリティで良い意味で東宝らしい味付け。主役級が揃った俳優陣のさすがの演技力ととんでもない歌唱力で本当に素晴らしいミュージカルに仕上がっている。特に御年61歳!!になられる我が永遠のマドンナ・土居裕子さんの透き通った天使のような歌声は相変わらずで、その歌声を聞いただけで自然に涙が出てしまうほど。居合わせた観客、老若男女全てを魅了していた。

それにしても30年以上前に上演された音楽座の代表的な作品をこの2020年にまさか東宝が上演するとはおそらく多くのミュージカルファンは夢にも思わなかったウルトラ級の出来事。しかも俳優陣がそれぞれこの作品がきっかけでミュージカルの世界を目指した方々やこの世界にデビューした方々などシャボン玉に出ること自体を演じる側の方々が一番感動している。こんなことは聞いたことがない。

1988年の初演から見続けて、もう何十回観たか記憶がないほどこの作品を愛している自分としては初めて観る若い方々がどんな感想を持つのだろうか?ということが一番気になるところだった。言うなれば親心のような気分。ところが初日から感動と絶賛の嵐!32年前に自分が衝撃を受けた感動は令和の時代でも同じように受け入れられて同じように感動を呼んでいる。やはり本当に良いのものは普遍なのだとSNSに上がる声に毎日、嬉々としている。

今回の東宝の企画は日本のオリジナルミュージカルにおいて画期的なことで意味深い。今後、このシャボン玉をきっかけに新たな流れが生まれる予感がする。初演時には名も無き小さな劇団だった音楽座が後に日本のオリジナルミュージカルの最高傑作と呼ばれるシャボン玉を世に送り出し、オリジナルミュージカルの潮流を作ったように時を経て今度は東宝が同じくシャボン玉で新たなオリジナルミュージカルのトレンドを作ってほしい。

現在の音楽座は解散前の旧音楽座とは劇団運営の考え方が少々違っていて過去の名作をオリジナルのまま上演する機会が減ってきている。しかし、旧音楽座の作品群はシャボン玉に勝るとも劣らない作品ばかりで傑作オリジナルミュージカルの宝庫だ。今回の東宝の企画のようにどこが企画しようが今後これらの傑作たちが多くの方々の目に留まり、オリジナルミュージカルの世界へと誘うきっかけとなり、より多くの人たちが心の底から感動できるシーンをもっともっと作ってほしい。

今の音楽座には今後のミュージカル界に対して前向きに大きな心を持った英断を期待したい。今回のシャボン玉で東宝はもちろんこの作品を提供した音楽座の評価と関心がかなり上がっているのも事実だからだ。昔も今もこれからも永遠の音楽座ファンとしての切なる願いだ。

32年の時を経て・・・左 2020年東宝作品パンフレット。右 1988年音楽座初演パンフレット。

32年の時を経て・・・左 2020年東宝作品パンフレット。右 1988年音楽座初演パンフレット。