バネに変わる

人は生きていく中で他人の言葉で傷ついたり、悲しんだり、喜んだり、励まされたりすることが多々ある。振り返ると自分の人生の中で忘れがたい影響を残したのは傷ついたシーンだった。しかしそこで浴びせられた言葉のお陰で今日の自分がある。

ひとつは自分が社会人1年生で右も左も分からないデザイナー見習いの頃のこと。あるイベントの仕事でプロダクションのディレクターと仕事をした折、企画書にあったMCという言葉が分からず「この世界に居てこんなことも知らないの?!」と会議中に人前であからさまに馬鹿にされたこと。

MCとはマスターオブセレモニーと言う意味でいわゆるイベントの司会者的な引き回し役のこと。空間系専門のデザインを勉強してきてイベントのことなど学んでこなかった身としては分からずとも悪くはないのだが、これが悔しくて駆け出しの身ながら深く傷ついた。

1年生に向かって人前で放つ言葉かどうかは別にしてその経験によってそれ以後、相手がたとえ1年生でもただ経験がないというだけであからさまに馬鹿にすることのないように肝に銘じた。相手のキャリアの多少や有無だけで態度を変えることのないように常にリスペクトを持って接することを心掛けてきた。

もうひとつはパーソナルコンピュータ黎明期の頃。ウィンドウズOSがまだWindows 3.1で自分もまだまだビギナーで数少ないエキスパートに不明なこと、疑問に思うことをその都度お伺いに行っていた。熱心さゆえ何度も何度も聞きに行ったせいなのかある時「そんなことは猿でも分かる!」と言い放たれた。

この時も何もそこまで言われなくても!?と思ったが、それがきっかけでもう二度と聞きに来るまい!と誓い、その時から全て独学で学ぶことが身に付いたお蔭で今のフリーランスとしての自分がある。マイナスの経験がプラスのバネに変わったということになるがこの類の事は誰にでも一つや二つはあるのではないだろうか?

LEICA M9-P / Hektor 73mm f1.9 @Kamakura20170731

LEICA M9-P / Hektor 73mm f1.9 @Kamakura20170731

幸福であること

この夏は主要カメラメーカーの新製品が多くリリースされ、コロナ禍の中、カメラファンにとっては充実した夏になった。特にキヤノンとソニーはそれぞれファン待望の機種が発売になってSNS上ではお互いのファン同士の対決ムードで熱く盛り上がっている。その対決ムードが良からぬ方向へ進むこともある。

新しいカメラが出る度によくあることなのだが最近は高価なカメラが多いので拍車がかかるケースが多々ある。いわゆる作品至上主義の方々の言い分はカメラはあくまで道具で写真を撮る為のもので撮った作品が大事。腕も伴っていないのに高価なカメラの性能や持つ喜びなどばかりに言及することなど本末転倒!と否定的な意見が必ず出てくる。

カメラ志向に対するアンチの意見だがそもそも論として個人の趣味の嗜好を他人にとやかく言われる筋合いは無いし、カメラが大好きということは素晴らしいことだと思う。それについて先日、人気ユーチューバーの「まきりな」さんが語ったことが当然のことだが久々にすっきりして我が意を得た。

氏曰く、趣味の世界で何が一番大切かと言うと「自分が幸せになれること」と。カメラが好きでカメラを愛でることで自分が幸せに感じるならそれが一番、撮影することで幸せに感じるならそれが一番、作品を他人様に見てもらうことに幸せを感じるならそれが一番。人それぞれ顔が違うように幸福感はそれぞれ違って良いのだ。

カメラを愛でることを恥じることなど一切ない。一番大切なことはそのことによって自分が幸福かどうかだ。ちなみに自分のカメラと写真の幸福感の比率だが仕事ではカメラ 1:写真 9、プライベート(=ライカ)ではカメラ 9:写真 1だ。どちらも幸福感は半端ない。文句あります?笑

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2

40周年

ここへ来て再びコロナ禍が広がっている。これを何度か繰り返しながら終息へ向かうのだろう。長い戦いになる。そんな中、何件かは仕事のオファーを頂いている。ありがたいことだ。最近では現場スタッフも自分の息子か娘のような年齢ばかりでややもすれば孫?のような若いスタッフもちらほら。そういうスタッフとの出会いはこちらも刺激をもらえるので楽しみでもある。そして現場前はいくつになっても不安と期待とが入り混じっているが実は不安の方が大きい。

この8月で会社員でのデザイナー人生20年、その後のフリーランスでのフォトグラファー人生20年、この業界で仕事を続けて40年になる。これだけ長く同じ業界に居ても現場前の不安はゼロにはならない。空間と名の付くものならたいていのものは撮れる自信はある。それでも不安はゼロではない。ただ、それでちょうど良いと思う。いつまでも不安が無くならないから必死になれるし、真剣に臨める。そしていざ現場に出ると若いスタッフとのコラボレーションはアドレナリンが出まくって楽しくて仕方がない。

そんな若いクリエイターの方々から良い評価を頂けるとそれだけで素直に嬉しく、大きな励みになる。加えて最近では若いスタッフたちから教えられることも少なくない。今の現場は新しい感性が飛び交っている。これは嘘偽りのない心境だ。こうして思える性格と不安と感じる性格を親に感謝したい。自分自身にも他人様にも誠実で居ること。何にでも好奇心と向上心を持ち続けること。仕事を長く楽しく続ける極意はこれに尽きる。この歳になって改めて噛みしめている。

この業界に同じ1980年に入った相方殿も同じく40年!を迎えた。二人揃って同じ業界でデザイナー・イラストレーター、そしてフォトグラファーとして健康で大過なく生きてこられたこと。そして今でもオファーを頂けることに感謝したい。

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

コロナ禍に思うこと

今回のコロナ禍でこの国のエリートと呼ばれていた指導者たちとその取り巻きたちが全く機能していないこと、国会議員と官僚が今の危機に対して準備はおろか目の前で起こっている現実に対しても効果的なアクションを何も起こせないことが暴露されてしまった。後手後手の施策も効果を上げているとは思えず、あげく自治体自らが行動を起こし始めている。

象徴的に感じることは安倍首相の言葉。自ら行ったことも行う気もない「テレワーク」「オンライン帰省」「オンライン飲み会」などなど官僚が書いた文面をただ読み上げるだけの姿がもう喜劇にしか見えない。SNS上で炎上したことも何をどのタイミングでどう発信すべきかが分かっていないからだ。SNSを価値あるメディアとして有効に使いこなしている優れた自治体のリーダーたちや経営者たちの即断即決行動に比べて一国のトップの体たらく。言葉がない。

そんな中、優れた女性リーダーたちの活躍が目立つ。ドイツのメルケル首相、ニュージーランドのアーダーン首相、台湾の蔡英文総統。そして小池百合子東京都知事。どの方も即断即決で自らの言葉と行動で結果を出し、国民からも大きな支持を受けている。やはり女性ならではの生活に根差した考えと素早い決断は説得力があり、今回のような危機の中では想像力が欠如した安倍首相やその取り巻きたちよりもその政治力は遥かに優れている。

そして科学的な根拠は皆無だが以前から危惧していたこと。今回のコロナ禍は地球が怒っているとしか思えない。コロナ禍以前の世界の指導者たちやその支持者たちは自己や自国の利益のみを優先し、あちこちで起こっていた自然界が発していた警鐘には見て見ぬふりをして耳を貸さず、ただただ効率や利益しか追及して来なかった。そのことへの怒りが地球から発せられているとしか思えない。このコロナ禍が運よく終息した暁には世の中が洗浄されて少しはまともな世界に変わっていることを願うばかりだ。

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.