雨のヘクトール

プライベートでも仕事でも雨の撮影は好きではない。空間を専門に撮る仕事柄、晴天のもとで撮影することが多く、雨の場合は延期になる。その為、わざわざ雨の中で撮る習慣がほとんど無い。人によっては雨のときにしか撮れない光景があると言うが雨は機材や服装への気遣いなどで集中力が落ちることが多くやはり好きになれない。

だが、先日の京都ロケハンは天気予報通りにならず、雨が降ったり止んだりの天気。ロケハン終了後の散策の為に用意していった機材も使わず仕舞いのものもあり、結果的にこのレンズ一本だけでの撮影となった。まあ、機材を色々と持っていっても良い結果が出ないことが多いものだが自分の場合は雨なら尚更だ。

そんな雨の京都だったが嬉しい誤算もあった。雨に濡れてしっとりと光る被写体にはヘクトールの独特の写りが思いのほか合っていたこと。こういう機会が無ければ雨の中に持ち出すことは無かったので新たな発見だった。万事塞翁が馬ということか。

LEICA M-P / Hektor 73mm f1.9

LEICA M-P / Hektor 73mm f1.9

京都ロケハン

昨日は、来週本番撮影予定の仕事で京都へ日帰りロケハンだった。今まで仕事で関西圏へはよく行っていたが京都だけはここ10年で2回ほど。なぜかあまりご縁がなかった。そのせいか地理的なことはよく分かっていない。京都のあらゆる場所が歴史上有名でどこへ行っても名所ばかりだが東西南北の関係性がイマイチ明るくない。

そんな中、今回のロケハン場所は嵯峨の大覚寺。京都の北西部、渡月橋や天龍寺、竹林などで有名な名所地域の最北に位置している。ある有名なアニメ作品の20周年を記念して大覚寺内で展示やイベントが行われている。ロケハン自体は午前中で終わったので午後は近辺を散策をと思っていたが連休の初日と相まってもの凄い数の観光客。

渡月橋へ続くメインストリートは原宿の竹下通り状態でとても歩く気にはなれず、途中の天龍寺もごった返していたがここだけは観たいと思い、本堂と庭園、法堂の雲龍図を拝観してきた。とても素晴らしいお寺さんで広い書院から臨む雨にしっとり濡れた紅葉前の庭園は美しかった。ただ、庭園も観光客が多くその喧騒さには辟易した。今の日本はどこへ行っても大勢の観光客ばかりでこんな状態がこれからも続くのか、と思うとなんとも憂鬱になる。今回の嵯峨野辺りは静かに歩きたい街だ。

LEICA M-P / Hektor 73mm f1.9

LEICA M-P / Hektor 73mm f1.9

4本目のヘクトール

今まで3本のヘクトールを使ってきたが、今手元にあるヘクトールはブラック&ニッケルの初期玉。貴重なシリアルナンバーのレア玉だったが銀座の匠にオーバーホールをお願いしたところ、ハズレ玉という結果が出たレンズだ。ライカのオールドレンズにはよくあることだが残念だ。それからしばらくしてフォト・ムトリで同じブラック&ニッケルのヘクトール73mmに出会った。

試写したところ、ピントも全域できちんと出ていて純正フード・キャップも揃っている玉だった。ということで通算4本目のヘクトール73mmが手元へ来た。3本目の同じブラック&ニッケルはしばらく残して撮り比べることにした。で、ここ一ヶ月ほど両方を撮り比べたところ、4本目のヘクトールのシャープさは今までのどのヘクトールと比べても突出して素晴らしく、無限遠近くも中距離も最短付近もどれも素晴らしいシャープさでヘクトールとはこんなにシャープなレンズだったのか?と今更ながら驚いた。

さらにこのヘクトールは最短が1m!指標も1mがきちんと記されている。今まで噂は聞いていたが実際に最短1mのものを見るのは初めて。もちろん距離計とも連動していて使い勝手も写りも過去3本のヘクトールと比べても文句のない玉。ようやく求めるヘクトール73mmと出会えた。ライカオールドレンズとは奥が深い、4本とも写りが違うというなんとも悩ましく罪作りな世界だ。

LEICA M9-P / Hektor 73mm f1.9

LEICA M9-P / Hektor 73mm f1.9

レンズフィロソフィー

想像させる写真が好きだ。写実的な写真よりも一枚の写真から様々なことを想像させる写真。ワイドレンズを評してより広く撮れる、引きが無い場合に使うレンズ。写真教室や単純なレンズ解説で良く目にするが、ワイドレンズこそ被写体との距離感によって関係性を浮かび上がらせ、観る人によって様々なことを想起させることができる奥の深いレンズだと思う。

中でも21mmは昔からワイドレンズの象徴のようなレンズで古今東西、銘玉が多い。代表的な21mmにツァイスのビオゴンがあるが、このスーパーエルマーもかつての銘玉スーパーアンギュロンの後継と言われている。レンズには過去の多くの作品や写真家によって積み上げられたフィロソフィーが内在すると思う。被写体に向かう時、そんなフィロソフィーに思いを馳せながらシャッターを押す。そういう瞬間に触れられるこのレンズが好きだ。

LEICA M-P / SUPER-ELMAR-M 21mm f3.4 ASPH.

LEICA M-P / SUPER-ELMAR-M 21mm f3.4 ASPH.