村田諒太と井上尚弥

先日の村田諒太のWBA世界ミドル級タイトルマッチは村田の見事な5回TKO勝ちだった。試合前には相手のスティーブン・バトラーは若く連戦連勝のハードパンチャーゆえ前回のロブ・ブラント戦の様にはいかないだろうと感じていた。それが予想を裏切って素晴らしい勝利だった。

今回、驚いたのは村田のボクシングスタイル。以前はアマチュア出身ゆえ、防御中心の手数の少ない右ストレートだけが頼りのアウトボクシングな試合が多かった。それが前回のロブ・ブラントとのリターンマッチでは鬼気迫るボクシングを見せ、初回からガンガン打合い、今までの村田からは想像もできないスタイルで勝利を収めた。

こういう戦い方はモチベーションが高いリターンマッチではよくあるがそもそもボクサーは自分のボクシングスタイルを根本から変えることはなかなか出来るものではない。それがここ2戦の村田は今までの彼のボクシングスタイルとは180度違うボクシングを披露している。それもボクサー人生としては終盤に入るこの時期に見事に変身した。

長年ボクシングを見ているがこんなボクサーは今まで見たことがない。ボクサーにとって決して容易いことではない、それゆえ村田諒太というボクサーからは学ぶべき点が多い。村田諒太と井上尚弥。現役日本人チャンピオンの中では傑出した二人。どちらも謙虚で聡明、練習熱心で真摯な姿勢が素晴らしい。強さも人格も兼ね備えた真のボクサーアスリートだ。この二人をリアルで眼にすることが出来ることを幸せに思う。

LEICA Q-P

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THE MONSTER @ たまアリ

井上尚弥のボクシングは常に観る者の期待を遥かに超えたパフォーマンスを見せて来た。昨夜のさいたまスーパーアリーナでのWBSSバンタム級決勝、井上尚弥 vs ノニト・ドネア。ボクシングとしては記憶にない22,000人の超満員!2階席まで埋まったさいたまスーパーアリーナ(通称たまアリ)は今回も井上尚弥が何かをやってくれそう。そんな期待で異常な空気感に満ちていた。

前座試合が行われる中、観客はみな世紀の一戦のゴングが鳴る瞬間を今か今かと固唾を飲んで待っていた。たまアリに集まった全ての観客は序盤での井上のKO勝ち、あるいは長引いても5~6Rくらいにはドネアを仕留めるだろうと思っていた。ただ、井上もドネアもお互い稀有の才能を持ったボクサー同士でとてつもないハードパンチャー、どちらにしても瞬時に決着がつくことも予想される。その緊張感が異様な雰囲気になっていた。

そんな緊張感の中、ゴングが鳴った。ボクシングとは何が起こるか分からないものだ。モンスターと呼ばれて圧倒的な勝利を誰もが予想していた井上に序盤で右目の上を切るというアクシデントが起こった。ドネアの見事なパンチに依るもので、たまアリは一瞬凍り付いた。その後、試合は予想を覆して一進一退、どちらに転んでもおかしくない内容で進んだ。終盤11Rに井上が見事にダウンを奪ってやや有利と思えるまま12R判定となった。

結果は井上3-0の勝利だった。12R終了のゴングが鳴った瞬間、リスペクトし合っている両者が笑顔で抱擁する姿には心が震えた。最高のボクサーのふたりが技術と魂とプライドをかけて12Rをフルに戦った、まさしく36分間のドラマだった。たまアリに集まった誰もが勝者・敗者に関係なく感動し、スタディングオベーションで両者を称えた。ボクシングの試合でこんな光景は今まで見たことがない。

今回も観る者の予想を超えたパフォーマンスを見せた井上尚弥。人間性も含め日本のボクシング史上最高のボクサーアスリートだ。こんな偉大なボクサーを同時代に観られる幸運に感謝しかない。先日のワールドカップラグビーと昨夜のボクシング、どちらも魂をぶつけ合って戦った後はお互いを心の底からリスペクトするという本来アスリートのあるべき姿を体現してくれた。すべてのアスリートはこうあってほしいものだ。

20019年11月7日、たまアリでの世紀の一戦はボクシングファンとして一生語り継げる一夜になった。

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金田正一

400勝投手の金田正一が亡くなった。つい最近までワイドショーのご意見番として元気な姿を見せてくれていた。にわかに信じ難い。自分ぐらいの歳の男子にとってプロ野球の名選手達はヒーローだった。中でも金田、長嶋、王は永遠のヒーローだ。

金田は長嶋、王にとっても先輩格で特に新人の長嶋へプロの厳しさを教えたデビュー戦4打席4三振は強烈だった。金田は元々は国鉄スワローズ(現ヤクルト)という弱小球団に所属し、そこで400勝のうちの勝ち星のほとんどを残した。弱い球団で多くの勝ち星を挙げることは並みの投手では出来ない事だ。

400勝と簡単に言うが現役生活20年、その全ての年で連続で20勝を残さなければ記録にならない。今の野球では考えられないことだ。しかも当時はリリーフやクローザーなど確立していない時代、勝利のほとんどが完投勝利!記録に関しては最多通算奪三振、最多通算完投、最多通算イニングなどなど最多記録がこれからも破られそうに無い記録ばかり。やはり不世出の大投手だ。

現役を引退した後もロッテオリオンズ(現千葉ロッテ)の監督としてユニークなパフォーマンスで当時不人気だったパ・リーグをひとりで盛り上げ、観客動員にも大きく貢献した。巨人時代、ドームになる前の後楽園球場で一度だけそのピッチングを生で観たが長身のサウスポーから繰り出される糸を引くような速球の速さだけは強烈に記憶している。

巨人時代は故障もあって往年のスピードは出ていなかったらしいがそれでもマウンド上での勇姿は脳裏に焼きついている。また、人としても他者を貶さず、元気で頑張れ!といった励ますフレーズしか記憶に無い。どこぞの勘違いご意見番のように人を貶す、根拠無くケチをつける姿などほとんど見たことは無かった。野球人としても人としても豪快で素晴らしい人物だった。ご冥福を祈りたい。

LEICA M10-P / Hektor 73mm f1.9

LEICA M10-P / Hektor 73mm f1.9

村田諒太の夜

昨夜のWBA世界ミドル級タイトルマッチは意外な結果で驚くと共に久しぶりに感動してしまった。昨年、ラスベガスで一方的な判定負けでタイトルを失った村田諒太、その時のボクシングはとてもプロのチャンピオンとは思えないお粗末な内容で彼はもうこのまま引退と思っていた。それが9ヶ月ぶりの再戦で見事なTKO勝ちでタイトルを奪還した。

一般的にはボクサーは持って生まれたスタイルがある。練習で磨きをかける事は出来るがスタイルそのものはなかなか変えられないものだ。例えば井上尚哉などは持って生まれた優れた資質と厳しいトレーニングであのような世界的なレベルのボクサーになった。攻守のスピードとバランス+ハードパンチャースタイルは彼独自のスタイルで他のボクサーには真似できない。これは教えられて身に付くものではない。

村田諒太はロンドンオリンピックのゴールメダリストだがスタイルはアマチュアらしいディフェンスをベースにしたテクニックと右の強打のボクサーだ。プロになってもそのスタイルは大きくは変わらずあまりプロっぽくなく好戦的なボクサーではなかった。性格も真面目で優しい、それが仇になる試合もあった。

ラスベガスではそれが出てしまって相手のロブ・ブラントの異常な手数に押されっぱなしで何も出来ないまま敗れた。それが昨夜はどうだ!1ラウンドから相手のパンチを恐れず強打を繰り出した。2ラウンドも続けてパンチを打ちまくった。技術的な事はさておき、まさしくプロのボクサーはこうでなくてはならない。

村田の必ず勝つという気持ちが全面に出た素晴らしいボクシングだった。彼の気持ちが伝わってきて感動した。世界タイトルマッチという大舞台でここまでスタイルを変えられたボクサーはあまり見た事がない。このスタイルを続けられるのならばチャンピオンとしてまだまだやれると思う。

LEICA M9-P / Thambar 90mm f2.2

LEICA M9-P / Thambar 90mm f2.2