幸福であること

この夏は主要カメラメーカーの新製品が多くリリースされ、コロナ禍の中、カメラファンにとっては充実した夏になった。特にキヤノンとソニーはそれぞれファン待望の機種が発売になってSNS上ではお互いのファン同士の対決ムードで熱く盛り上がっている。その対決ムードが良からぬ方向へ進むこともある。

新しいカメラが出る度によくあることなのだが最近は高価なカメラが多いので拍車がかかるケースが多々ある。いわゆる作品至上主義の方々の言い分はカメラはあくまで道具で写真を撮る為のもので撮った作品が大事。腕も伴っていないのに高価なカメラの性能や持つ喜びなどばかりに言及することなど本末転倒!と否定的な意見が必ず出てくる。

カメラ志向に対するアンチの意見だがそもそも論として個人の趣味の嗜好を他人にとやかく言われる筋合いは無いし、カメラが大好きということは素晴らしいことだと思う。それについて先日、人気ユーチューバーの「まきりな」さんが語ったことが当然のことだが久々にすっきりして我が意を得た。

氏曰く、趣味の世界で何が一番大切かと言うと「自分が幸せになれること」と。カメラが好きでカメラを愛でることで自分が幸せに感じるならそれが一番、撮影することで幸せに感じるならそれが一番、作品を他人様に見てもらうことに幸せを感じるならそれが一番。人それぞれ顔が違うように幸福感はそれぞれ違って良いのだ。

カメラを愛でることを恥じることなど一切ない。一番大切なことはそのことによって自分が幸福かどうかだ。ちなみに自分のカメラと写真の幸福感の比率だが仕事ではカメラ 1:写真 9、プライベート(=ライカ)ではカメラ 9:写真 1だ。どちらも幸福感は半端ない。文句あります?笑

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2

LEICA M10-P / Thambar 90mm f2.2

40周年

ここへ来て再びコロナ禍が広がっている。これを何度か繰り返しながら終息へ向かうのだろう。長い戦いになる。そんな中、何件かは仕事のオファーを頂いている。ありがたいことだ。最近では現場スタッフも自分の息子か娘のような年齢ばかりでややもすれば孫?のような若いスタッフもちらほら。そういうスタッフとの出会いはこちらも刺激をもらえるので楽しみでもある。そして現場前はいくつになっても不安と期待とが入り混じっているが実は不安の方が大きい。

この8月で会社員でのデザイナー人生20年、その後のフリーランスでのフォトグラファー人生20年、この業界で仕事を続けて40年になる。これだけ長く同じ業界に居ても現場前の不安はゼロにはならない。空間と名の付くものならたいていのものは撮れる自信はある。それでも不安はゼロではない。ただ、それでちょうど良いと思う。いつまでも不安が無くならないから必死になれるし、真剣に臨める。そしていざ現場に出ると若いスタッフとのコラボレーションはアドレナリンが出まくって楽しくて仕方がない。

そんな若いクリエイターの方々から良い評価を頂けるとそれだけで素直に嬉しく、大きな励みになる。加えて最近では若いスタッフたちから教えられることも少なくない。今の現場は新しい感性が飛び交っている。これは嘘偽りのない心境だ。こうして思える性格と不安と感じる性格を親に感謝したい。自分自身にも他人様にも誠実で居ること。何にでも好奇心と向上心を持ち続けること。仕事を長く楽しく続ける極意はこれに尽きる。この歳になって改めて噛みしめている。

この業界に同じ1980年に入った相方殿も同じく40年!を迎えた。二人揃って同じ業界でデザイナー・イラストレーター、そしてフォトグラファーとして健康で大過なく生きてこられたこと。そして今でもオファーを頂けることに感謝したい。

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

LEICA M10-P / SUMMILUX-M 50mm f1.4 ASPH.

時代の変わり目

最近、カメラ界でのユーチューバーたちの勢いが凄まじい。特にメーカーの新製品ハンズオンレビューのスピード感とレビュー内容が新しい時代を感じさせる。彼らは多くの登録者数を持ち、影響力は無視できない存在になっている。しかも今一番旬なミラーレス一眼はスチール性能とムービー性能が半端ない次元に入って今までのスチールオンリーのカメラマンの知識だけでは太刀打ちできない。

写真雑誌に雇われ、一世を風靡していたカメラマンたちは過去の遺物となって出番を失いつつある。メーカーも発表前に多くの人気ユーチューバーたちに新製品を手渡し、発表直後にそれぞれがハンズオンレビューの動画をアップしている。少し前まではこんな時代が来るとは予想もしていなかった。確かにユーチューバーたちは動画の知識はお手の物、しかもセミプロのような立場なのでメーカーに対してあまり忖度をしていない。

数年前まで雑誌レビューの掛け持ちをしていたプロカメラマンたちはメーカーに気を使い、デメリットを語らないいわゆる忖度した手ぬるいレビューだったことを考えると隔世の感がある。いつまでもメーカーのご機嫌伺いをしている時代ではない。ユーチューバーたちの台頭とアサヒカメラの廃刊は時代の象徴と言える。

そのユーチューバーたちが巻き起こしているキヤノンvsソニーの全面戦争。今月初めにEOS R5&R6が発表され、明日29日にα7s3が発表になる。いずれも現在のミラーレス一眼のリーダーを争う勝負カメラだ。ところがR5の一番のセールスポイントだった8K撮影でプロのハンズオンレビュアーたちが暴露した8K撮影時のオーバーヒート問題が浮上し、SNS上では騒然となっている。写真も動画もソニーを超えて一気にトップを狙ったキヤノンの勇み足だ。が、どうも想定内だった節がある。ただ、スチール機としては恐ろしいほどの超高性能機だ。

対してソニーのα7s3はほぼ動画専用機で「4K that works = 働く4K」の謳い文句で仕事で!制限なく撮影できる4Kを打ち出し、現ラインアップを含めかつての立場が逆転して王者の風格でキヤノンとの全面対決に入った。ユーチューバーたちのレビューも対決ムードを加速させている感がある。新製品でこれほどユーチューバーたちが影響を与えることは今まで無かった気がする。既存の写真媒体は路線変更しない限りますます苦しくなりそうだ。時代は大きく変わってきている。

LEICA M10-P / SUMMARON-M 28mm f5.6

LEICA M10-P / SUMMARON-M 28mm f5.6

写真の感性

いきなり不遜な言い方だが他人様の写真が自分の写真に直接影響を与えたことは今まで全くない。他の方の作品を素晴らしいとか、美しいとか、上手いなあとか、良いなあ、と感じることはあってもそれが自分自身の写真や人生観などを根本的に変えることは無い。ゆえにそういう意味では写真展に足を運ぶことも少ない。

自分の写真はむしろ写真の世界の外の世界の影響を受けている。構図や色彩は絵画やグラフィックデザインから、光の感じ方や物語性、人との距離感などは映画やステージから、目の前の光景の感じ方は先人の言葉や偉大な音楽や四季折々の自然界の理などから影響を受けている。

これは写真だけでなく一般的に言えることだが発する言葉や態度、生きる姿勢、人生観などはすべて自分の今までの経験値を超えることはない。ゆえに優れた映画や絵画、デザイン、音楽、自然美などで自身のこころが動いたこと、実際に体感することが自分をカタチ創ることだと思う。写真の感性もその土台の上にある。

実はプライベートでの写真を作品と呼ばれることが気恥ずかしい。作品としての写真というものに対しては妙に照れがあって作品性をガチで真剣に語るシーンが苦手。ゆえに自分はいわゆる写真家と呼ばれる人種とは全く別世界に生きていると感じている。大好きなカメラという道具で写真という目に見えるカタチで身の回りの事象を自分が美しいと感じた瞬間を記憶として残すこと。そのことにしか興味がないようだ。そこには他人様の評価は存在しない。

LEICA M9 / SUMMILUX-M 35mm f1.4 @20090925 M9 first shot

LEICA M9 / SUMMILUX-M 35mm f1.4 @20090925 M9 first shot